
不動産競売において、「無剰余取消し(むじょうよとりけし)」という制度はあまり知られていません。
複数の抵当権が設定されている不動産では、後順位抵当権者や債権者にとって大きな意味を持つ制度です。
こちらにブログでは、不動産競売における無剰余取消しの仕組みや任意売却への影響、そして後順位抵当権者がどのように対応すべきかを、分かりやすく解説します。
無剰余取消しとは?競売手続が中止される仕組み

無剰余取消しとは、競売手続きにおいて、売却代金が申立債権者の債権額を満たす見込みがない場合に、裁判所が競売申立てを却下または取り消されることです。
この制度は、無意味に手間や費用のかかる競売手続きを回避し、関係者の負担を軽減する目的で設けられています。
無剰余取消しが認められるには、
①競売申立てがなされていること
②不動産の評価額や予想売却価格が申立債権者の債権額を満たさないと見込まれること
③他の債権者が「配当の見込みがないこと」を理由に競売取消しを求める申立てを行うこと
この3つの要件を満たす必要があります。
この制度は、無意味に手間や費用のかかる競売手続きを回避し、関係者の負担を軽減する目的で設けられています。
無剰余取消しが認められるには、
①競売申立てがなされていること
②不動産の評価額や予想売却価格が申立債権者の債権額を満たさないと見込まれること
③他の債権者が「配当の見込みがないこと」を理由に競売取消しを求める申立てを行うこと
この3つの要件を満たす必要があります。
複数の抵当権者が存在する場合の無剰余取消しに関する留意点

不動産に複数の抵当権が設定されている場合、配当の優先順位は抵当権の登記順に従って決定されます。
不動産競売の申立人が後順位であっても、先順位の抵当権者が優先的に弁済を受けて後順位の抵当権者は先順位者に対する配当が完了した残余金からの配当となります。
従って、対象不動産の評価額や予想される売却価格によっては、後順位の抵当権者に一切の配当がなされない可能性もあります。
不動産競売の申立人が後順位であっても、先順位の抵当権者が優先的に弁済を受けて後順位の抵当権者は先順位者に対する配当が完了した残余金からの配当となります。
従って、対象不動産の評価額や予想される売却価格によっては、後順位の抵当権者に一切の配当がなされない可能性もあります。
具体例

具体例: 例えば、評価額が3,500万円の不動産に対し、
第1順位抵当権:3,000万円(X銀行)
第2順位抵当権:1,500万円(消費者金融A社)
第3順位抵当権: 500万円(消費者金融B社)
が設定されているとします。
この場合、競売により3,500万円以下で落札された場合には、全額がX銀行と消費者金融A社に配当されるため、第3順位の消費者金融B社には一切の配当が行われません。
第1順位抵当権:3,000万円(X銀行)
第2順位抵当権:1,500万円(消費者金融A社)
第3順位抵当権: 500万円(消費者金融B社)
が設定されているとします。
この場合、競売により3,500万円以下で落札された場合には、全額がX銀行と消費者金融A社に配当されるため、第3順位の消費者金融B社には一切の配当が行われません。
無剰余取消しの申立権者について

このような全ての抵当権者に配当の見込みがない状況において、後順位の抵当権者(この例では消費者金融B社)は、債権回収の見込みが極めて低いか回収できる可能性がない場合に、後順位の抵当権者が競売を申し立てた場合には、裁判所が民事執行法第63条に基づき、「売却代金に無剰余(=残余がない)」であることを理由に、無剰余を理由に競売を取消することができます。
裁判所としては、「債権回収の見込みのない無駄な競売を進めても意味がないので取り消しますよ」ということになります。
裁判所としては、「債権回収の見込みのない無駄な競売を進めても意味がないので取り消しますよ」ということになります。
債権者が無剰余取消を回避するための方法

後順位の抵当権者が申し立てる場合の「配当が見込めない=競売できない」というわけではありません。
裁判所から無剰余取消の通知を受けたとしても、債権者が適切な対応をとれば、競売手続の継続を認めてもらえる可能性があります。
具体的には、裁判所から通知を受けてから1週間以内に、債権者が一定の対抗手段を講じれば、無剰余取消を防ぐことができます(内容次第では、競売取消の判断を先延ばしにすることも可能です)。
裁判所から無剰余取消の通知を受けたとしても、債権者が適切な対応をとれば、競売手続の継続を認めてもらえる可能性があります。
具体的には、裁判所から通知を受けてから1週間以内に、債権者が一定の対抗手段を講じれば、無剰余取消を防ぐことができます(内容次第では、競売取消の判断を先延ばしにすることも可能です)。
申出額に見合う保証を提供する
民事執行法第63条第2項第1号では、次のように定められています。
差押債権者が不動産の買受人となる意思を示し、申出額に相当する保証を提供した場合には、無剰余取消は認められない。
つまり、債権者自身が買受希望者として名乗り出て、「これだけの金額(申出額)で買い取ります」と表明し、その金額に相当する保証金を裁判所に預ける必要があります。
申出額は、競売にかかる手続費用や優先債権の配当見込み額などを含めた合計額とされます。これにより、他の買受希望者は、その金額以上で入札しなければならないため、競争条件も明確になります。
競売物件を自ら取得したいと考えている債権者にとっては、現実的な選択肢の一つです。
差押債権者が不動産の買受人となる意思を示し、申出額に相当する保証を提供した場合には、無剰余取消は認められない。
つまり、債権者自身が買受希望者として名乗り出て、「これだけの金額(申出額)で買い取ります」と表明し、その金額に相当する保証金を裁判所に預ける必要があります。
申出額は、競売にかかる手続費用や優先債権の配当見込み額などを含めた合計額とされます。これにより、他の買受希望者は、その金額以上で入札しなければならないため、競争条件も明確になります。
競売物件を自ら取得したいと考えている債権者にとっては、現実的な選択肢の一つです。
剰余が発生する見込みを証明する
無剰余取消の通知を受けた後でも、競売によって債権の一部または全部が回収できる見込みがあると証明できれば、競売は継続されます。
例えば、上位の抵当権がすでに返済されており、抹消手続きが完了しているといったケースが該当します。
住宅ローンのような実務ではあまり見られないパターンですが、該当する事情があれば、証拠資料を添えて裁判所に申し立てることで、無剰余取消の回避が可能です。
例えば、上位の抵当権がすでに返済されており、抹消手続きが完了しているといったケースが該当します。
住宅ローンのような実務ではあまり見られないパターンですが、該当する事情があれば、証拠資料を添えて裁判所に申し立てることで、無剰余取消の回避が可能です。
優先債権者の同意書を提出する
もっとも実務的で採用されやすい方法が、優先順位の高い抵当権者からの同意を得ることです。
無剰余取消は、実質的に意味のない競売手続きを避け、優先債権者の利益を守ることを目的としています。
従って、たとえ後順位の債権者による競売であっても、上位の抵当権者がこれに同意していれば、裁判所は手続きを止める理由がありません。
この場合は、単に同意を得るだけでは足りず、「同意書」を正式な書面として裁判所に提出する必要があります。
無剰余取消は、実質的に意味のない競売手続きを避け、優先債権者の利益を守ることを目的としています。
従って、たとえ後順位の債権者による競売であっても、上位の抵当権者がこれに同意していれば、裁判所は手続きを止める理由がありません。
この場合は、単に同意を得るだけでは足りず、「同意書」を正式な書面として裁判所に提出する必要があります。
無剰余取消=競売終了?その後にできる「任意売却」とは

競売申立てが無剰余取消しによって却下され、競売手続が正式に終了した場合でも、そこで不動産の処分が完全に閉ざされるわけではありません。
むしろ、ここから債務者主導での「任意売却」へ移行するチャンスが生まれます。
むしろ、ここから債務者主導での「任意売却」へ移行するチャンスが生まれます。
無剰余取消しにより競売が終了した場合の状況整理
無剰余取消しとは、後順位の抵当権者や差押債権者などが申立てた競売手続について、「実質的に配当の見込みがない(剰余が生じない)」と裁判所が判断した結果、競売を中止・取消す制度です。
この取消しが確定すると、対象不動産に対する裁判所の差押効力は消滅して物件の管理・処分権限は再び所有者(債務者)に戻されます。
この取消しが確定すると、対象不動産に対する裁判所の差押効力は消滅して物件の管理・処分権限は再び所有者(債務者)に戻されます。
債務者・債権者間の協議による「任意売却」への移行
競売手続が取り消された後、当該不動産は再び自由に売却可能な状態となるため、債務者と債権者(特に後順位抵当権者)が協力すれば、「任意売却」という形で債務整理を図ることが可能です。
この任意売却は、競売と異なり裁判所を介さずに通常の売買契約に基づいて行われます。
ただし、抵当権の抹消には各抵当権者の同意が必要となるため、事前の調整が不可欠です。
この任意売却は、競売と異なり裁判所を介さずに通常の売買契約に基づいて行われます。
ただし、抵当権の抹消には各抵当権者の同意が必要となるため、事前の調整が不可欠です。
任意売却を実現するために必要な実務的な手続と調整

競売が無剰余取消により中止されたとしても、債務整理はまだ完結していません。任意売却という選択肢を確実に成功させるためには、各関係者との調整と実務的な段取りが重要です。
以下に、任意売却を進める上で必要となる具体的な対応事項を整理します。
以下に、任意売却を進める上で必要となる具体的な対応事項を整理します。
各抵当権者の同意取得および抵当権抹消の承諾
任意売却は、対象不動産に設定されているすべての抵当権や差押えを解除(抹消)してからでないと実行できません。したがって、各債権者に対し、
●任意売却の同意
●配分表通りに抵当権を抹消する旨の承諾
を取り付ける必要があります。特に第2~3順位の抵当権者(通常は住宅ローン債権者)との交渉が最も重要であり、後順位債権者の協力も欠かせません。
●任意売却の同意
●配分表通りに抵当権を抹消する旨の承諾
を取り付ける必要があります。特に第2~3順位の抵当権者(通常は住宅ローン債権者)との交渉が最も重要であり、後順位債権者の協力も欠かせません。
売却代金の配分案(配当計画)の作成と合意形成
売却代金が債務全額を賄えないケースでは、債権者間での配当案の作成と合意形成が不可欠です。
●売却代金の中から各抵当権者がいくら回収できる
●滞納管理費や固定資産税等の優先弁済分の扱い
●仲介手数料・諸経費の控除項目の明確化
など、調整すべき項目は多岐にわたります。債権者の利害が対立することもあるため、経験豊富な不動産業者や弁護士・債務整理の専門家の介入が望まれます。
●売却代金の中から各抵当権者がいくら回収できる
●滞納管理費や固定資産税等の優先弁済分の扱い
●仲介手数料・諸経費の控除項目の明確化
など、調整すべき項目は多岐にわたります。債権者の利害が対立することもあるため、経験豊富な不動産業者や弁護士・債務整理の専門家の介入が望まれます。
滞納状態の公租公課の処理と自治体との調整(差押解除の交渉)
固定資産税や住民税などの滞納がある場合、自治体が当該不動産に対して差押登記を行っていることが多く、任意売却の妨げとなります。
このような場合、自治体に対して、売却代金から一定額を納付する旨を説明して残額の分割納付や免除を交渉することで、差押の解除に応じてもらう必要があります。
※自治体によって対応が異なるため、早期の調整が求められます。
このような場合、自治体に対して、売却代金から一定額を納付する旨を説明して残額の分割納付や免除を交渉することで、差押の解除に応じてもらう必要があります。
※自治体によって対応が異なるため、早期の調整が求められます。
まとめ|無剰余取消しと任意売却に移行するためのチャンスと捉える

競売手続きの中で、無剰余取消しは単なる中止措置ではなく、「より現実的な回収を目指すための戦略的判断」として利用することができます。
とくに後順位抵当権者にとっては、競売による配当が見込めない中でも、任意売却という形で一定の回収を目指すチャンスが生まれます。
不動産業者や法律家と連携して、最善の出口戦略を模索することが重要です。
とくに後順位抵当権者にとっては、競売による配当が見込めない中でも、任意売却という形で一定の回収を目指すチャンスが生まれます。
不動産業者や法律家と連携して、最善の出口戦略を模索することが重要です。
お知らせ

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複雑な権利関係や債権者との協議が必要な不動産等の不動産売却を経験豊富な専門家チームが全力でサポートいたします。
まずは、お気軽にお問い合わせください。あなたの不動産の悩みを解決し、安心して売却できるよう全力でお手伝い致します。
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