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社長の自宅が法人名義!?廃業とともに売却する場合の注意点を解説します

中小企業の経営者の中には、「社長の住まい」を法人名義で購入しているケースが少なくありません。

一見、節税効果があるように見えるこの方法ですが、廃業や倒産時、あるいは資産整理のタイミングでは、思わぬ落とし穴に直面することがあります。

特に「法人名義であること」と「実際の使用者が社長個人であること」のズレが問題となりやすく、法務・税務・不動産の各方面で適切な対応が必要です。

今回は、社長の自宅を法人名義で購入・保有している場合において、廃業や清算と同時にその不動産を売却する際の注意点を、実務的かつ分かりやすく解説していきます。

社長の自宅を法人名義で保有する理由とは?

法人経営者の中には、自宅を個人名義ではなく法人名義で購入・保有しているケースがあります。

社長が法人名義で自宅を保有する主な目的と、その際に注意すべき税務上のポイントをわかりやすく解説しますの参考にして下さい。

尚、税務上の相談は税理士事務所に相談してください。

減価償却による節税効果

建物部分については、法人の経費として減価償却費を計上できます。

これにより、法人の所得を圧縮し法人税の負担を軽減できます。

諸経費を損金算入できる

不動産取得に伴う借入金の利息や固定資産税、修繕費などの費用も、法人の経費として処理できる可能性があります。

役員社宅制度の利用

社長が法人所有の物件に住む場合、「役員社宅」として取り扱えば、適正な家賃を法人から徴収することで、経済的利益(みなし給与)としての課税を回避できる仕組みがあります。

形式は法人所有でも、実態が“社長の家”だと問題になる?

ただし、法人名義でも実際には「社長やその家族が無償で居住している」というケースも珍しくありません。

こうした実態がある場合には、税務上のリスクが生じます。

法人が無償で住宅を提供していると、税務署から「経済的利益の供与=給与課税」と判断される可能性があります。

このため、役員社宅として運用する場合には、適正な賃料の設定が非常に重要です。

会社の廃業時に不動産を売却する際の注意点とは?

法人を廃業・清算する際に、不動産の売却が必要になることがあります。しかし、法人名義の不動産にはいくつかの重要な税務・法務上の注意点があるため、慎重に対応する必要があります。

この記事では、廃業時に法人名義の不動産を売却する際に直面しやすい問題点と、その対策についてわかりやすく解説します。

法人名義の不動産は「会社の資産」

その不動産が社長の自宅であったとしても、名義が法人であれば、それは会社の資産です。

従って、会社の廃業に伴って不動産を売却する場合は、個人の判断ではなく法人の資産処分手続きとして正しく進める必要があります。

売却益には法人税が課税される

法人が保有していた不動産を売却して利益が出た場合、その売却益は法人の所得として扱われ法人税が課税されます。

特に注意が必要なのは、長期間保有していた不動産です。

減価償却により帳簿価額(簿価)が大きく下がっていると、実際の売却価格との差が大きくなり、結果として多額の課税対象となる可能性があります。

清算後の売却はできない!タイミングに注意

会社を正式に解散・清算した後に、法人名義のままで不動産を売却することはできません。

名義が法人である以上、売却は清算手続き中に完了しておく必要があります。

また、売却によって得た現金は以下のように扱われます:

●債務の返済

●税金の支払い

●株主への残余財産の分配

この流れを無視して売却を後回しにすると、思わぬトラブルに発展する可能性もあります。

実際にあった!法人名義の自宅に関するトラブル事例

法人名義で社長の自宅を保有することには節税メリットがありますが、運用を誤ると思わぬ税務トラブルや手続きの混乱に巻き込まれることがあります。

ここでは、実際に発生したトラブル事例を2つご紹介します。

● 事例1:無償使用で「経済的利益」として課税

ある中小企業の社長が、法人名義で取得した住宅に約10年間、無償で居住していたところ、税務調査を受け、「法人から役員個人への経済的利益の供与」と認定されました。

このケースでは、以下のような問題点が指摘されました:

●賃貸借契約書の不備(または不存在)

●適正な賃料の徴収がない

●法人側で役員社宅としての処理がされていない

税務署はこの無償使用を「役員給与(経済的利益)」とみなし、過去10年分について所得税と源泉所得税を追徴**。追徴額は、延滞税や加算税を含めて数百万円規模となりました。

▶ 教訓:節税効果を狙うなら「役員社宅制度」のルール遵守が必須

法人名義の住宅に役員が居住する場合、節税メリットを得るには「役員社宅制度の適用要件」を満たす必要があります。

以下のポイントを押さえることが重要です。

適正な賃料の設定

国税庁の定める「使用人兼役員に対する社宅の賃料基準」に基づき、次の算式で算出される金額以上の家賃を徴収する必要があります。

小規模住宅(床面積132㎡以下)における基準賃料

① 建物の固定資産税評価額 × 0.2%(月額換算)

② 建物の敷金等のうち利息相当額(月0.2%目安)

③ 付属設備(冷暖房、給湯設備等)の評価額 × 0.2%(月額換算)

上記の合計が「最低限徴収すべき適正家賃」とされます。

賃貸借契約書の締結と保管

●使用期間、賃料、更新条件、退去条件などを明記

●契約は法人(貸主)と役員個人(借主)の間で正式に締結

●税務調査時に提示できるよう、原本またはコピーを保管

家賃の定期的な支払いと帳簿への記載

●毎月一定額を法人口座に振込(現金手渡しは避ける)

●法人の会計帳簿には「社宅賃料収入」として計上

●役員の給与明細や申告書に家賃控除の事実を反映

注意点

このように、単に「法人名義にすれば節税になる」というわけではなく、税務上の形式と実態を整えることが節税の前提になります。

適切な運用をしていないと、後から「経済的利益の供与」と判断されて追徴課税を受ける可能性が高く、むしろ損をする結果にもなりかねません。

● 事例2:法人解散後の不動産売却に失敗したケース

ある中小企業の社長は、法人を清算しようと考え、税務署への解散届出や清算結了登記を済ませた後で、「法人名義のまま残っていた自宅不動産」を売却しようとしました。

しかし、すでに法人は登記簿上消滅している状態であったため、登記上の「売主」が存在せず、不動産の売却登記を進めることができませんでした。

結果的に、以下の手続きを経る必要が生じました:

●家庭裁判所に「清算人選任の申立て」を行い、

●選任された清算人に不動産の売却権限を付与し、

●売買契約・登記手続を清算人が行う

という非常に煩雑で時間とコストのかかる対応を余儀なくされたのです。

▶ 教訓:法人の解散・清算と不動産処分はセットで考えるべき

法人名義の不動産を処分するには、法人が法的に存在しており、売却意思を表明できる機関(代表取締役または清算人)が必要です。

以下のような実務的なポイントを押さえることが重要です。

不動産は「清算結了登記の前」に売却を済ませる

法人名義の不動産が残っている状態で法人を清算してしまうと、後から売却するためには家庭裁判所で清算人を選任するという面倒な手続きを踏まなければなりません。

特に注意すべきなのは、「清算登記完了=法的には法人の消滅」である点です。たとえ社長が「代表者だった」としても、もはや不動産の処分権限はありません。

不動産の処分権限を持つ「清算人」の存在が必要

法人が解散すると、通常は代表取締役がそのまま「清算人」に就任します(定款に別段の定めがない場合)。清算人は以下のような行為が可能です:

●財産の換価(不動産の売却など)

●債務の弁済

●残余財産の分配

清算登記が完了する前であれば、この清算人が売却契約の当事者として登記手続を行うことができます。

不動産が残ったまま法人が消滅すると「塩漬け資産」になるリスクも

法人名義のまま不動産が残存してしまうと、登記上の所有者が存在しないため、売却・賃貸・担保設定などの一切の取引が不可能になります。

さらに以下のような問題も生じ得ます:

●固定資産税の納税義務者不明による滞納リスク

●空き家のまま荒廃し、近隣トラブルや行政指導対象になる可能性

●法人名義の登記が残っているため、相続人等による利用も不可

▶ 実務上のアドバイス

●清算に着手する前に、法人名義資産の棚卸と処分計画を立てること

●不動産が残っている場合は、必ず清算登記前に売却または名義変更を完了させる

●処分できない場合には、清算人が適正に残余財産として相続・分配する手続きを実行する

注意点

会社の解散・清算は、「単なる法人登記手続き」ではなく、資産と債務の完全な処理が完了して初めて成立するものです。

不動産が絡む場合は、専門家(司法書士・税理士・不動産業者)と連携して、計画的に進めることが不可欠です。

不動産売却に向けた具体的なステップ

法人の廃業に伴い不動産を売却する際は、法的手続きや税務処理を含む複雑なプロセスを適切に進める必要があります。

以下に、実務的かつ専門的な観点から、売却に向けた具体的なステップを解説します。

法人としての正式な意思決定

法人名義の不動産売却は、法人の重要な財産処分に該当するため、取締役会や株主総会での正式な決議が必要です。

​中小企業では、代表取締役が唯一の株主である場合も多いですが、形式的であっても議事録を作成し、意思決定の証拠を残すことが求められます。

​これは、後の税務調査や法的手続きにおいて適切な手続きを経たことを示す重要な資料となります。​

不動産会社の選定と媒介契約の締結

法人名義の不動産の売却活動を円滑に進めるためには、信頼できる不動産会社を選定し、媒介契約を締結することが重要です。​

媒介契約には、「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」の3種類があり、それぞれに特徴があります。​自社の状況や売却方針に応じて、最適な契約形態を選択してください。

売買契約の締結と登記手続き

買主が決定したら、法人名義で売買契約を締結します。

​契約書には、物件の詳細、売買価格、引渡し日、特約事項などを明記し、双方が署名・捺印します。​

また、登記手続きに必要な書類(登記識別情報通知、印鑑証明書、法人の登記事項証明書など)を準備し、所有権移転登記を行います。

税務処理と清算手続き

不動産の売却によって得た利益は、法人の所得として課税対象となります。​

特に、長期間保有していた不動産の場合には簿価が低くなっており、売却益が大きくなる可能性があります。

​このため、法人税の計算や納付を適切に行う必要があります。​

また、売却代金を用いて債務の弁済を行い、残余財産がある場合は株主への分配を行います。​

これらの手続きを経て、最終的な清算申告を行い、法人の清算を完了させます。

清算登記前の売却の重要性

法人の清算登記を完了させた後に不動産が残っていると、法人が法的に消滅しているため、売却手続きが進められなくなります。​

この場合、家庭裁判所に清算人の選任を申し立てるなど、煩雑な手続きが必要となります。​

そのため、清算登記を行う前に、不動産の売却を完了させることが望ましいです。

法人から個人への不動産譲渡における主な注意点

​法人から社長個人への不動産譲渡は、適切に行えば将来的なトラブルを回避できますが、税務上のリスクも伴います。以下に、専門的な観点から注意点を詳しく解説します。​

譲渡価格の適正性(時価評価)

法人が個人に不動産を譲渡する際、譲渡価格が市場価格(時価)と乖離していると、税務上の問題が生じます。​特に、時価の50%未満での譲渡は「低額譲渡」とみなされ、以下のような課税が発生する可能性があります。​

法人側:​時価で譲渡したものとみなされ、譲渡益に対して法人税が課税されます。

個人側:​時価と実際の譲渡価格の差額が「経済的利益」とされ、所得税の課税対象となります。​

このため、譲渡価格の設定には慎重な時価評価が必要です。不動産鑑定士の評価や近隣の取引事例、公的な評価額などを参考に、適正な価格を設定することが求められます。​

贈与とみなされるリスク

譲渡価格が時価よりも著しく低い場合、税務署から「贈与」と判断される可能性があります。

特に、法人と個人が特殊な関係(例:社長とその法人)にある場合、通常の取引とは異なると見なされやすくなります。

この場合、個人側に贈与税が課されることがあります。​

個人側の資金調達能力

社長個人が不動産を購入する場合、購入資金の出所が明確であることが重要です。

資金の出所が不明確であると、追加の課税対象となる可能性があります。

また、金融機関からの借入れを利用する場合は、返済計画や担保設定など、慎重な資金計画が必要です。​

譲渡に伴う諸費用の負担

不動産の譲渡には、以下のような諸費用が発生します。​

●不動産取得税:​個人が不動産を取得する際に課される地方税。​

●登録免許税:​所有権移転登記に伴い発生する税金。​

●登記費用:​司法書士への報酬や登記手続きに必要な費用。​

これらの費用は、譲渡価格や不動産の評価額に基づいて計算されるため、事前に試算し、資金計画に組み込むことが重要です。

まとめ:専門家の関与が不可欠

社長の住居を法人名義で保有することは、税務メリットを享受できる一方で、廃業や不動産売却時には多くのリスクを伴います。「形式は法人名義、実態は社長の家」という構図が、さまざまな法務・税務上の論点を生むからです。

廃業や清算、資産の処分を検討するタイミングでは、必ず以下のような専門家に相談することをおすすめします。

●税理士(譲渡益課税・経済的利益課税の確認)

●弁護士・司法書士(契約・登記・清算手続き)

●不動産業者(売却価格の妥当性評価・売却サポート)

廃業は会社人生の終わりではありますが、正しい手続きを踏むことでスムーズな資産整理や次の人生への一歩に繋がります。法人名義の自宅の売却も、しっかり準備して臨みましょう。

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